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お客様の声


 監理担当者として数多くのプロジェクトを手掛けられた、株式会社日建設計監理部門シニアエキスパートの
石上智章技師長に監理業務とはどのような業務なのか、お話を伺いました。



左より大関化学工業(株)代表取締役社長 津田庄平、(株)日建設計 技師長 石上智章氏、大関化学工業(株)東京支店長 我妻栄人建築家としての仕事のやりがいや面白さを感じられる時はどんな時ですか。


 複数のプロジェクトを担当し、一つ完成しても次の仕事が始まる事の繰り返しで、現実的にはやりがいを感じる暇が無い状態です。強いて言えば竣工式で神職の祝詞を聞いた時にほっとします。

 面白さとは設計図から物を造る為に施工図に展開し、幾度と無く専門業者の皆さんと議論に議論を重ねた上で、形になっていく過程に面白さを感じます。



監理業務とはどんな仕事ですか。また得意とする分野はありますか。


 監理業務には4つの働きがあります。

 1番目に何を造るかを決めます。
造るべきものの姿を決めていく仕事で、施工図、製作図の検討をして承認をします。
 2番目にどう造るかを決めます。
その為に各種施工計画書の検討と助言をします。同じ形の物を造ろうとしても造る方法、材料、過程が違うと全く違ったものが出来てしまうからです。
 3番目に決められたものが決められた方法で造られている事の確認をします。
その方法は各種検査の立会い及び書類確認で実施します。
 4番目に工事の運営です。
これは工事段階に於けるプロジェクトマネジメント行為を表すものです。

この中で最も得意とする分野は施工図の検討です。一番重要でもあります。経験を積むことにより得意分野は広がり、変遷して行きます。



思い出に残るプロジェクトは何がありますか。


 NECスーパータワーがあります(1990年1月完成 施工:鹿島・大林JV)。アメリカの人工衛星ロケット「スペースシャトル」のような外観を持つ超高層ビルで、地上約50mに風抜き穴を設け、風公害を減少させ、その直下に電動開閉出来る屋根とアトリュウムを配したオフィスビルです。

 グレードの高い建物を短工期にて完成させた事の喜びと感動は、その後の監理業務に大きな影響を与えたと思っております。



今回の東日本大震災をどのように受け止めておられますか。


 震災当日は完成引渡しの直前のソニーシティ大崎の現場におりまして、激しい揺れを体験しました。同ビルは免震構造となっており従来の建物とは違った揺れ方ではありますが、もの凄い揺れを体感しました。窓から外を見ますとゲートシティ大崎の高層ビルが大きく揺れており、今にもガラスが飛び出すんじゃないかとの恐怖感、更にお台場方面では火災が起きて黒煙が上がっておりました。

そんな状況でありましたが同ビルの被害は軽微なものであり、改めて日本の建築構造の考え方の正しさを痛感しました。今後はオフィスビルから高層住宅まで免震構造が必要不可欠なものになると考えております。

 

 私的な事ではありますが、小生の自宅も液状化現象により大規模半壊となりました。敷地内より大量の土砂が噴出し、その為建屋が沈下し最大24㎝傾きました。特に被害が大きかったのは1階の居間で、従来の木造住宅の基礎は布基礎と束石で構成されており、地盤が沈下した為に束石と束が完全に離れてしまい、ベニヤ下地だけで支えている状況で、小さいトイプードルが歩いただけでも凄い振動となりました。

 庭もひどい状況で、雑草が生えないよう特殊舗装した面が沈下及び亀裂が発生し、雨水排水枡が沈下して、配管が切断され排水不能状態となりました。勿論内装も壁を中心にかなりの被害を受けました。

建屋のジャッキアップ工事、庭を含む外構工事も7月末に完成し、今は何事も無かったように見えます。入居当時大震災が発生した場合、液状化現象が起きる可能性について市の職員に聞いてはいましたが、現実に100年に一度の事が起きてしまいました。地震の事は忘れて、単なる改修工事を行ったのだと思いたいのですが・・・



最近では建設需要の減少や価格競争が激化していますが、この状況を建築家のお立場からどう思われますか。


 設計事務所としましては設計図書を基に専門部署にて予算書を作成し、発注者側と協議・調整を行い予算を固めます。

 請負者側の事情もありましょうが、予算を無視した応札は本来失格行為と考えます。現場が着工してから何とかなる。そんな考えは全く通用しません。適正価格と適正工期でよい建物を造る。これしかありません。



建築における防水の重要性についてどのようにお考えですか。


 最近は、地下躯体の一部セパレーターなどに部分的な防水を施すケースも多いが、それだけで建物としていいのかと疑問です。ジャンカ補修箇所やクラックから水が廻る可能性は十分に考えられます。また、コンクリート打設時の問題としてコールドジョイントがあるが、初期硬化が始まっている状態で打継いだ箇所は、密実なようで実は詰まっていないのが現状です。こういった漏水が懸念される箇所に見た目だけの処理を施すことは間違いであり、監理者は、経験に基づいて漏水の危険性を予測し、完全な止水処理を施すことが重要な業務であると思っています。



今後のプロジェクトや挑戦したい事はありますか。


 挑戦とは違いますが、現在監理技術者の育成に力を注いでいます。東京地区の監理部門建築系スタッフの約100名の部員から40数名程度を選抜して、その半分を小生の研修生として実践的研修を行っております。

 現在5年計画の内、4年が経過しようとしています。順調に行けば来年末に4名程度が卒業出来る見込みとなっています。技術者の育成は簡単な事では出来ません。時間がかかります。日本が世界に誇れるものは「物造り」の技術です。私の場合も会社の先輩から受け継いだものです。それをしっかりと後輩へと伝えていきたいと考えております。

[2011.11掲載]

石上智章氏

【株式会社日建設計 石上智章氏プロフィール】

1944年東京都中野区生まれ。
現在 株式会社日建設計 監理部門シニアエキスパート 技師長

<主なプロジェクト>
旧経団連会館、三井物産大手町新社屋、NECスーパータワー、聖路加タワー、ゲートシティ大崎、日建設計東京ビル、京都迎賓館、東京ミッドタウン、ソニーシティ大崎、東京スカイツリー、大手町1丁目第2地区再開発(工事中)、飯田橋駅西口再開発(工事中)